
時は西暦20XX年。
銀河系あたり。
人々は皆、蛸壺の中で生きている。
そこでは、各々の嗜好に合わせてカスタマイズされた娯楽を享受ししている。
そこは心地よい空間のはずだが、何か物足りない。
これまで急速な技術の進歩で、現実と変わらない感覚を蛸壺の中でも味わえるようになった。
しかし、各々の嗜好に合わせることを重視ししすぎたために、人々の自由な選択や偶発的な共通体験を完全に奪い去ってしまった。
人々は、個々の力ではそのコントロールされた世界から抜け出すことはできなかった。
大きな力が壺の中に人々を押し戻し、また、誰もその心地よい空間から抜け出そうとは思わなかった。
かつて、その力に刃向かうものもあったらしいが、成功はしなかった。
しかし、蛸壺の大規模修繕が必要となってきた近年、壺を出入りし、何食わぬ顔でアンテナを立て、ラジオ放送をはじめたり、ビラを壺に投げいる人が現れるようになった。
そして、自分の暮らしてきた世界から抜け出し、初めて解放された人々は、深呼吸をし、自らも安住の地を後にして、壺を出て、自由に語り出すようになったのであった。
そして、再び、共通体験の場所を作り出した。
これはかつてあったノスタルジーの場ではない。
新たなタイプの共通体験の場である。
彼らは、それを「第三のラジオ」と名付けて各々が動き出した。